第18回信州大学物理会 総会
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《 記念講演会 》

「雪と氷の不思議な世界を研究して」

       佐藤篤司氏
       防災科学技術研究所雪氷防災研究センター元センター長

   雪の研究と言っても色々な切り口がある。災害対策、環境問題、都市計画、物性研究、絵画、文学などである。

  雪の研究ができるところが北大にあることがわかり北大大学院に進んだ。低温科学研究所でやっていた雪と氷の研究も幅が広い。 雪の結晶、積雪の物理、雪崩、吹雪、海氷、凍土などで、さらに生物・植物系の研究もあった。 私は主に、積雪の力学的性質の基礎研究と山岳雪渓などの研究をしてきた。 防災科学技術研究センター(現在、防災科学技術研究所)に勤めてからは、我が国の雪害の防除・軽減の基礎研究を進めてきた。

  雪・氷の特性

   雪というのは氷でできている。氷は水分子が6角形の構造を作り、隙間だらけである。融けて液体になると固体より重いという特性がある。    氷には氷T、氷U、氷Vから氷]Xまで、すなわち16種類現在知られている(氷Tは二つに分かれる)。 たとえば40℃の水に圧力をかけていくと氷Yという固体になってしまう。 水の密度は1000kg/m3なのに対して氷Yの密度は1300kg/m3を越えるので水に沈んでしまう。 これは実験室でしか見られないが、宇宙にはこういう氷と水が共存しているかも知れない。

   雪の結晶を取り上げて十勝岳で研究したのが中谷宇吉郎博士で、私は中谷先生の孫弟子になる。 三代目は・・・と怪しくなるが。中谷先生は雪が、いろいろな形を作るのはどういうメカニズムかを研究され、水蒸気密度と温度で決まるということを明らかにされた。 それは世界中の気象学者で知らない人はいない基礎中の基礎になっている。

   雪崩発生のとき雪はブロック状に破壊し、固体としての性質を示し、降る雪は粉体としての性質を示す。 雪の粒をくっつけておくとマイナス5°で水が介在していないのに雪の粒がくっついていく。 焼き物は焼きがまの中で融点よりは低いけれどもある程度高い温度に置いておくと粒子がくっついて固い磁器や陶器になるという現象が起こる。 雪も融点に近い温度でそれと同じ現象が起きている。これを焼結という。昔、20ミクロンの氷を多量につくる実験装置を作った。 その氷粒子を見ていると、大きな粒子ほどんどん大きくなり、小さい粒子はますます小さくなる。弱肉強食の現象が雪の世界でも起こっている。

   「新雪」は時間とともに「締まり雪」になり、水が入ると「ざらめ雪」になる。 北米大陸、中国大陸などは「霜ざらめ雪」であり、締まり雪は日本ではよく見られるが、世界の中では珍しいと感じている。

   津軽平野で飛吹雪流量を測る装置を作って測定した。 空き缶を設置してストッキングをつけて、風は通るが雪の粒は通さないようにした。 当時装置を作るためにストッキングを5足、10足買うというのが恥ずかしくて大変だった。 その後レーザー光で吹雪流量を測る装置を作った。現在は市販されている。

  雪崩の衝撃力の測定

   われわれの研究所では雪崩の衝撃力を調べるために角度30°の大型斜面(滑り台)をつくって雪のブロックを滑らせて衝撃力を測定した。 山では雪庇が発達して危険である。 米国滞在中は爆薬を使って雪庇が小さいうちに雪崩を起こさせることをやった。 爆薬を頻繁に使ったので過激派と間違えられて目をつけられたかなと心配した。

  人工降雪機の製作

   1996年に雪氷防災実験棟を作って人工降雪機を作った。 1年中好きな温度に設定して雪の実験研究ができるようになった。 これは研究に最適なので世界中から研究者が来ている。 ヨーロッパから来てこの装置を使って研究してドクターを取った人もいた。

   首都圏の大雪でパンタグラフに雪が積もり、電車が止まってしまった。 JRは解決策を見つけたいということで、パンタグラフを5台くらい持ち込んで人工降雪させて、どんな仕様のパンタグラフが着雪に効果的かを研究していった。

  災害予測システム

   いろんな災害を防ぐためにモデルを使って予測するシステムを私が提案して雪氷研究センター総出で作った。 しかしこの結果情報を一般の方に出せない。気象業務法が壁になっている。 国や県などの担当部署にしか情報は出せない。私はこんな法律は廃止すべきだと思っている。

  地球温暖化

   地球規模の問題、地球は温暖化している。将来はどうなるかを予測しようとしている。 地球の気候システムがおかしくなるのではないか。太陽のエネルギーが地球の気象を動かしている。 温室効果の有効なのがCO2などである。

  過去の気象は10世紀から12世紀にかけては気温が高かった。 この時期にバイキングが進出して北米まで行った。 その後寒い時期があって中世の氷河期と言われている時期にペストがはやった。その後温暖になると産業革命が起こっている。

  日本では飢饉が何度も起こって江戸幕府が弱体化したのは寒冷化の影響だとも言われている。 1850年頃から気温が上がっている。最近は安定していると言われている。 「地球温暖化は終わった、これから寒冷化に進む」と言っている学者もいる。 しかし、多くの学者は「今後ますます温暖化は進む」と考えている。

  北極圏における氷は減少している。氷河や夏の海氷がどんどん小さくなっている。 北極の気温の上昇は事実である。地球は太陽のエネルギーの30%を反射して70%を吸収する。 白い雪は95%反射している。高い塔にカメラをつけさせてもらって高田平野の反射を調べた。 雪に地面が覆われているときは反射率が高く積雪面積に比例することがわかった。 温暖化が進むと雪が減り、太陽エネルギーの反射が減りますます温暖化が進むと考えられる。 その反対が「寒冷化」であるが、それぞれのきっかけが何なのかはわかっていない。

宇宙の氷

  火星の北極で雪崩が起こったことを示す写真がある。 彗星はスポンジ状の氷とガスの集まりである。木星や火星では水は氷である。 金星や水星では水蒸気である。地球はちょうど水が液体と固体とを行ったり来たりすることができる星なのである。 我々生物は奇跡の環境に生きていると言える。

質疑応答の中で日本のスキー場の雪は世界でも一番スキーに良い雪質であるという話がありました。

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関連リンク
    「中谷宇吉郎雪の科学館と信大時代」(理学3S神田 健三さんの寄稿、2008年)     中谷宇吉郎雪の科学館と信大時代(←クリック)

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▲講師の佐藤篤司氏

▲講演会の始まり


▲氷には種類がある

▲氷の相図


▲相によって密度が違う
 

▲状態による結晶構造の
 違い


▲気候変動と人類史

▲地上気温の変動


▲失われた氷河

▲氷の累積損失


  日時:2015年5月23日(土)
  於:信州大学理学部(松本)

 ●記念講演会
  「雪と氷の不思議な世界を研究して」
    講師  佐藤篤司氏
  (防災科学技術研究所雪氷防災研究センター元センター長、理4S)

 ■後援
  長野県教育委員会
  松本市教育委員会
  信濃毎日新聞
  中日新聞社
  市民タイムス
  松本タウン情報
  テレビ松本ケーブルビジョン

 ■第18回総会幹事
   三澤 進(文理16)
   高藤 惇 (理2S)
   上條 弘明(理9S)
   志水 久(理91SA)
   宮本 樹(理02S)
   足立 大輔(理03S)
   田中 優也(理11S*)
   藤江 泰弘(理11S*)


 ■写真撮影/藤 惇(理2S)/太平 博久(理6S)
 ■報告/渡辺 規夫(理4S)
 ■WEB制作/小松 徹夫(理16S)


●「信州大学物理同窓会」事務局●

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